直江津白山の将棋よろず覚書き

将棋の魅力を、将棋関連書籍の紹介や将棋の歴史解説などを通して、お伝えしていきます。

棋書評価「横歩取りで勝つ攻めの最強手筋ガイド」

今回は、「横歩取りで勝つ攻めの最強手筋ガイド」(マイナビ出版 高橋道雄著)のブックレビューです。

 

本書の概要

本書の構成は以下のとおり、4章立てとなっています。

第1章:序盤編

 第2章:中盤編

 第3章:終盤編

 第4章:次の一手10題

 

この章立てとは別に、本書表紙に手筋1~手筋16という見出しが記載されています。ただし、残念ながら、章立てと表紙の見出しとのつながりを説明している箇所はありません。そこで、章立てと表紙の見出しのつながりを書くと、次のようになります。

 

第1章:横歩取りの序盤に関する説明で、表紙の見出しには触れていない

第2章:手筋1~手筋10を解説

第3章:手筋11~手筋16を解説

第4章:本書全体の復習問題と解説

 

各手筋の解説の後に、それらの手筋が現れた公式戦の局面を紹介して、それについても解説しています。

 

研究ノート

本書は、横歩取りをある程度指しこなしていて、複雑な局面が現れた際の指針にするのが適切かと思います。横歩取りを一から勉強しようと思っている人にとっては、あまり適さないかと思います。理由は、公式戦で現れるような局面に接する機会が無いからです。

 

本書に限らず、公式戦で現れるような局面の解説は、初中級者にとってはあまり益がないように思います。そういった局面は途中図から始まって、一定の経過を紹介する形となっていますが、その途中図に至るまでに、どのような構想に基づいて進められたかの解説が無いので、その局面から、こう指すことで優位に立てると言われても、腑に落ちないのです。

 

もちろん、読者の棋力が高ければ十分に納得できるのでしょうが、初中級者は基本的な局面を集中的に勉強し、実戦で試すほうが力はつくと思います。

棋書評価「超急戦横歩取り」

今回は、「超急戦横歩取り」(創元社 高橋道雄著)のブックレビューです。

 

本書の概要

本書の構成は以下のとおり、5章立てとなっています。

 プロローグ

第1章:▲6五角戦法(△4五角戦法)

 第2章:相横歩取り戦法

 第3章:▲7七桂戦法(△3三桂戦法)

 第4章:▲6六角戦法(△4四角戦法)

 第5章:▲6九玉戦法(△4一玉戦法)

 

横歩取りは、一般的に後手が仕掛ける戦法です。従って、戦法の呼称も本書におけるかっこ内に記載されている呼称が、本来のものです。しかし、本書では先後逆にした表記を採用しているため、戦法の呼称も先後逆になっています。

 

また、各章の最後に復習問題が出題されています。

 

本書の優れた点の一つが、プロローグで横歩取りの趣旨を述べていることです。

曰く「横歩取り戦法は、序盤早々に先手が飛車の横利きによって、3四の歩を取る指し方をいう。しかし、実際は後手がむしろ望んで取らせているので、実質的には後手の戦法といっていい。後手は一歩損が小さくないマイナス。しかし、その代償に手数をかせぎ、主導権を握って局面をリードしていけるのが、後手としてのプラス面である」

 

横歩取りを勉強しようとする人は、ぜひこの言葉を覚えてほしいと思います。横歩取りというと変化も多く、覚えるのが大変というイメージがあります。ですが、横歩取りの趣旨は、著者が主張しているように、後手が主導権を握って局面をリードしていくことにあります。

 

研究ノート

横歩取りは、乱戦になりやすい上に、少しのミスが敗勢につながります。実際本書でも、相手の変化によっては、素直に「相手よし」と判断を下している局面もあります。

 

横歩取りは、好みが非常に分かれる戦法だと思います。変化が多く、覚えることが多いから避けたいという人もいるでしょう。一方、変化が多いということは力戦になることでもあり、それを制することに勝機を見出す人もいるでしょう。

横歩取りを試してみようとするならば、最初は、横歩取りの戦術全てを試すのではなく、ある特定の戦術をひたすら試したほうがいいと思います。例えば、横歩取りの中の一つ、△4五角戦法をとにかく試してみて、他の戦法はしばらく手を出さないでおくのです。一つの戦法に絞って試していけば、横歩取りの展開がある程度身についてきますので、それから他の戦法を試してみるのがいいかと思います。

 

本書には練習問題があります。一般的に練習問題は本文を読んだ後で力試しとして解くものですが、本書の場合は、先に問題を解いてから、本文を読み直したほうが、理解が進むと思います。横歩取りの場合、局面の変化が多く、筋を追って読み進めるのが意外に手間取ります。そこで、先に問題を読んで、その変化の意味を掴んで解説を読むほうがわかりやすいのです。

 

横歩取りの練習をするなら、コンピュータ相手が適しています。中級レベル以上のコンピュータであれば、横歩取りの定跡どおりに進めやすいので、本書の解説どおりになるか試しやすいのです。また、本書の解説する変化もコンピュータ相手だと出現しやすいので、コンピュータでしっかり練習してから、対人の実戦に臨むがいいと思います。

棋書評価「将棋基本手筋コレクション432」

今回は、「将棋基本手筋コレクション432」(将棋連盟文庫 将棋世界編)のブックレビューです。

 

私見

本書の「まえがき」で次のように述べられています。

「手筋とは部分的な形において有利のなるための一手であり、先人達が編み出してきた将棋に勝つための知恵の結晶のようなもの」

 

つまり、手筋を多く知っていれば、それだけ相手より優位に立てるというわけです。では、本書を全てマスターすれば棋力は上がるでしょうか?

 

将棋の勉強に関しては、定跡の勉強と本書のような手筋の勉強があります。実は、初心者にとって定跡の勉強は、さほど棋力の向上にはつながりません。

 

初心者にとって定跡の勉強がそこまで役に立たないのは、初心者が定跡を見ても、どうしてそれが定跡なのかが理解できないからです。仮にその定跡を覚えたとしても、定跡のとおりに展開することは、ほとんどありません。それに、定跡はある局面までの推移を提示しているだけなので、定跡の先は自分で考えなければなりません。将棋の基本がわかっていない状態で、定跡だけ勉強しても棋力の向上につながらないのは、こんな理由からです。

 

他方、手筋は部分的な形において有利になるための一手であるため、未知の局面に直面しても、手筋の知識を活かして、手を打てるわけです。その意味で、初心者は定跡よりも手筋を勉強したほうが棋力の向上にはつながります。

 

一方、手筋の勉強にも落とし穴はあります。

将棋というゲームは、部分的な形で有利になれば終わりというゲームではありません。あくまで、相手玉を詰まさなければ勝利になりません。ある局面で優勢というのは、相手玉を寄せやすくするためのプロセスに過ぎません。手筋で優勢になっても、寄せの手順を間違えて逆転負けといったこともよく発生します。

 

特に本書では、飛車・角を切る手筋も数多くあります。棋力が十分であれば、大駒を切っても確保した優勢を維持できるでしょう。しかし、棋力が未熟な状態で大駒を切ってしまうと、その瞬間の局面は優勢になっても、取られた大駒をうまく使われて、結局負けてしまうということも当然考えられます。その観点から、本書を鵜呑みにするのは避けるべきです。特に大駒を切るような手筋を実戦で使う場合は、注意が必要です。

 

私流本書の使い方

本書のような手筋の問題集は、一般的に、現在の棋力でどの程度問題が解けるかを把握するために使われます。実際、チェックリストが本にある場合もあります。

 

本書の問題構成は、居飛車振り飛車問わず、様々な局面が出題されています。テストという観点からは、多くの問題を解けたほうがいいでしょう。

 

しかし、将棋は紹介された手を実戦で指せてこそ、意味があります。しかも、本書の場合、居飛車振り飛車問わず様々な局面から出題されますので、例えば、居飛車党にとっては、振り飛車の局面の手筋を知っても、そこまで棋力向上にはつながらないわけです。

 

そこで、私の場合、本書の問題を全て解けるようになることは諦めて、自分が納得できた手筋を集めて、それを実戦で試みています。

 

確かに、問題を解けることも重要ですが、習った手筋は使えるようになってこそ、意味があります。私は居飛車党なので、振り飛車の手筋は実戦で使わないのです。だから、本書の多くの問題については解くことを諦めて、自分の戦法に沿った手筋を集中して習得する方が、学習効率はよくなります。

 

将棋と同じように、本に書かれていること全てをマスターするのではなく、時には捨てる姿勢も重要になってくるというわけです。

棋書評価「勝てる棒銀戦法」

今回は、「勝てる棒銀戦法」(創元社 青野照市著)のブックレビューです。

 

本書の概要

本書の「はじめに」において、筆者はこう述べています。

「相手が初心者の想定から有段者が指す手まで解説したのでどんな棋力の相手にも対応できるのが特長」

このように書いてあると、棒銀初心者が読めそうな本と思いがちだが、現実的には初心者にはハードルの高い本となっています。

 

本書の構成は以下のとおり、4章立てとなっています。

 第1章:相掛かり棒銀

 第2章:速攻矢倉棒銀

 第3章:対四間飛車美濃囲い編

 第4章:対四間飛車穴熊

 

それぞれの章において、基本となる局面から2~6の分岐を提示し、それらの分岐について解説しています。

 

例えば、第1章は基本図から、相手が「初心者」・「中級者」・「上級者」の3パターンで解説しています。こういった相手の棋力をベースにした解説は斬新ですが、仮に自分が初心者だったとして、この解説を理解できるかは疑問です。

 

これは、本書の解説に問題があるというのではなく、自分が初心者で相手が上級者であり、かつ相掛かりになったとして、初心者が本書の知識を少々勉強したくらいでは上級者の相手には難しいと思います。

 

研究ノート

ほとんど全ての戦法書はある局面の推移の解説になってしまうのは、何故でしょうか?

 

将棋というゲームの本質は、相手より多くミスをしたほうが負けることにあります。特に、双方の棋力が上がるほど、わずか一手のミスが勝敗につながります。

 

ということは、ある局面で優勢になると、棋力の高いプレーヤー同士なら、その差を縮めることは容易ではなくなります。そのため、ある局面の推移で優勢になることを提示できれば、そのまま優勢を保ったプレーヤーが逃げ切れるというのが、こういった解説書の前提になるわけです。だから、ほとんどの解説書は、こうなったら「先手よし」という途中図で終わってしまうのです。

 

もちろん、上級者以上であれば、そういった知識は非常に重要となります。一方、中級者レベル程度の場合、ある局面で優勢を保っても、終盤であっけなく逆転を許すことは日常茶飯事です。

 

こういった解説書が初心者、中級者にとっては消化不良になるのは、直接の勝利に結びつかないことが多いからです。

 

こういった解説書は、言い方を変えると、解説している戦法の手筋集とも言えます。このような局面には、こういった手が有効であるという解説は、まさに手筋そのものです。こういった知識は当然役には立ちますが、これだけでは勝てません。戦法の本を読むと同時に、寄せの勉強もしないと棋力向上にはつながりません。

棋書評価「井上慶太の居飛車は棒銀で戦え」

今回は、「井上慶太居飛車棒銀で戦え」(NHK出版 井上慶太著)のブックレビューです。

 

 本書の概要

本書の「はじめに」において、筆者はこう述べています。

「駒の動かし方は分かるが指し方が分からない、という声をよく耳にする」

このように述べている箇所がるので、直接的に言っているわけではないですが、筆者は初心者向けに本書を執筆したと言えます。

 

本書の構成は以下のとおり、3章立てとなっています。

 第1章:基本の相掛かり棒銀

 第2章:矢倉棒銀と角換わり棒銀

 第3章:棒銀四間飛車撃破

 

他の棒銀の解説書と同じように、本書でも、相居飛車の戦い方である「相掛かり棒銀」・「矢倉棒銀」・「角換わり棒銀」を解説し、後は振り飛車対策を解説しています。そして、それぞれの章の中でテーマとなる局面について、変化の推移を解説しています。

 

本書に限らず、初心者向けの戦法解説というのは、実は著者にとっては非常に難しいのだと思います。本書は、初心者向けですが、ルールを一通り覚えた初心者がこういった本を読んですぐに理解できるかというと、そうでもないことの方が多いです。

 

将棋の解説をする以上、ある局面の変化を説明するという形にならざるを得ないのですが、初心者にとって難しいのは、そのテーマとなる局面に至るまでのプロセスが、わからないのです。つまり、どうしてそのテーマに到達するのかについての、説明が無いからです。

 

ほとんどの解説は、初手から数手進んだ局面の棋譜がスタートになり、そこまでは何の説明もありません。初心者としては、どういう理由でそのような局面になるのかまで知りたいのですが、そこまで解説している本はまずありません。初心者向けと言いながら、戦法の本を読んでもちっとも強くならないというのは、ここに原因があると思います。

 

また、戦法の解説書の宿命とも言えますが、紹介する戦法の威力を紹介するため、戦法を仕掛ける直前の手は、概ね緩手・悪手になっていることがほとんどです。だからこそ、技が決まるわけですが、実戦では中々本が解説するような展開になりません。もちろん、技が決まるような展開に持っていくことに指し手の実力が問われるわけですが、初心者であるがゆえに、そこまでのレベルに到達していません。特に棒銀は、受け方の方法も解説書やネットで氾濫しているので、一通りの受け方をされると初心者はどうしても手が進まないということになり、中々上達しないということになります。

 

こういった解説書を読む上で初心者が心がけることは、「数の攻め」を常に意識することだと思います。棒銀の骨子は、2三の地点を銀と飛車で攻めることにあり、状況に応じてこれに角を絡めることもあります。将棋の基本は、ある地点を複数の駒で攻めることになるので、解説書を見るときは、どの地点をどのような駒で攻めようとしているのかを意識しながら読んでいくと理解が深まると思います。

 

本書のどの点が役立ったか

本書の特徴として、ページ数は少ないものの後手番での矢倉棒銀を解説している点です。ゴキゲン中飛車など後手番用の戦法でなければ、戦法の解説書は先手番で解説されます。しかし、棒銀は先手、後手問わず指せる戦法なので、後手番のときの棒銀の使い方を解説してくれるのは、非常に参考になります。

 

ちなみに、本書での後手番の棒銀解説の局面は、先手が「攻め合い」を選択した場合と、「専守防衛」を選択した場合の2つの展開を解説しています。

 

棒銀は、よく初心者向けの戦法と言われています。その理由は、戦い方がシンプルなので覚えやすいからです。しかし、戦い方がシンプルであるが故に、対策されやすいということも言われております。

 

さりながら、棒銀はプロも使う戦法ですし、駒の連携を意識して戦えば、十分に有用な戦法です。また、受け方を間違えると、あっという間に窮地に陥ってしまいます。

 

棒銀を自分の戦法とする場合、確かに原始棒銀だけでは行き詰まってしまうので、如何に攻撃を繋げられるかを意識して勉強していく必要があります。

棋書評価「寄せが見える本【基礎編】」

今回は、「寄せが見える本【基礎編】」(浅川書房 森雞二著)のブックレビューです。

 

本書の概要

本書の想定読者は、級位者~初段です。本書を含む浅川書房の「最強レクチャーブック」は、「級位者から初段、二段クラスの方を対象にユニークな視点と立体的構成で贈る本格的中級講座」というのがコンセプトだからです。ここまで、想定読者を定義づけている棋書も珍しいです。このコンセプト自体が、本書の大きな特徴と言っても過言ではありません。

 

本書の構成は以下のとおり、3章立てとなっています。

 レベル1:「追いこむのが寄せの基本」

 レベル2:「広い玉をつかまえる」

 レベル3:「駒の威力を発揮する」

 

本書の「はじめに」でも触れられていますが、はじめは簡単な問題から徐々にレベルがあがる構成となっているので、読み進む内に自然と力がつくようになります。

 

また、各レベルの最初に予習問題があり、次にその予想問題の解説が続き、最後に練習問題とその解説というスタイルをとっています。

 

本書のポイント

本書の特徴は、問題の解説が非常に丁寧である点です。正解を詳しく解説するのは当然のこととして、本書が優れているのは、誤った手が何故、誤りなのかを説明している点です。

 

初心者が本書のような問題を解いていると、解説とは違う手もありうるのではないかと、閃くときがあります。しかし、それは「勝手読み」というもので、まず間違っていますが、正解しか解説していない本では、そういった誤りを気づかせてくれません。本書は考えられる誤った手を解説してくれるので、何故誤っているのかを読者が理解できるようになるのです。

 

また、寄せ自体が手筋の宝庫という点も指摘できます。寄せの勉強は終盤力強化のためと思いがちですが、様々な手筋を駆使することになるので、本書をマスターすれば、必然的に棋力全体の向上に繋がります。

 

まとめ

将棋がうまくなりたいなら、本書は絶対に買うべきです。この本で将棋を指す上での考え方が身につきます。

 

ただし、本書で勉強するにあたって、1点注意があります。それは、詰将棋と寄せは似てあらざるものだということです。詰将棋は、ルール上、王手をかけ続ける必要がありますが、寄せに関しては、初手の王手は必須ではありません。むしろ、問題が高度になるほど、王手がかからないようなところに指して、それを相手に取らせることで、相手を動かし、追い込むという手筋が基本になります。詰将棋的に王手の連続で寄せを考えると、問題が解けなくなることにつながります。

 

詰将棋の勉強自体は棋力向上に繋がりますが、寄せを勉強するにあたっては、一旦、詰将棋的なアプローチは脇に置いて考える必要があります。本書の問題を解き進めていくとわかると思いますが、こんな手が正解なのかと思うような手によく遭遇します。

 

寄せを勉強するにあたっては、簡単な3手詰の詰将棋が解ける程度の棋力は必要ですが、何度も言うように、詰将棋的な考え方で固まってしまっては、寄せの勉強にはなりません。寄せの勉強の難しさは、このような頭の切り替えにあります。

名作あらすじ「賭博者 ドストエフスキー」

今回は、ドストエフスキーの「賭博者」をとおして、将棋を「賭け」という観点から考察してみます。

 

あらすじ

主人公は、ロシアの「将軍」の住み込み家庭教師の「アレクセイ・イワーノヴィチ」。物語は、主人公の手記という形をとり、「将軍」一家が「ルーレテンベルク」(ルーレットの町という意味の架空の町)に滞在するところから始まります。

 

文庫本の本文紹介にも記載がありますが、本書の基本的な筋は、主人公がルーレットで身を滅びしていくというものです。賭けがテーマである以上、ある程度想定される筋ですが、主人公がルーレットにのめり込んでいく原因が失恋という形をとっています。

 

本作でルーレットに手を出す人間は、最終的には負けるのですが、時折勝つ場面もあるのです。しかし、賭けというのは恐ろしいもので、一時の勝ちがむしろ、絶望的な敗北の第一歩になっているわけです。

 

賭けは、やれば破滅する。それにもかかわらず、その賭けに参加せざるをえないというダイナミズムをドストエフスキーは余すところなく書いているわけです。

 

なぜ、ゲームは賭けにつながるのか?

将棋の世界にも賭け将棋は存在していました。古文書では、賭け将棋を禁じる規則が見つかっていますし、「真剣士」と呼ばれる、賭け将棋で生計を立てている人たちも存在していました。当初は、純粋な遊戯であったはずのものが、どうして賭けの対象となってしまうのでしょうか?そして、どうして人は賭けに参加していくのでしょうか?

 

理由は、手っ取り早く稼げるからです。現代的に考えたら、稼ぎたいならしっかり働けということになるでしょうが、多くの人が稼いで蓄財できるようになるのは、資本主義経済が発達しているからです。少し歴史を遡れば、日々の労働は、日々の生計を立てるだけで精一杯で、お金がたまることはありません。しかも、現代と違い身分が硬直的なので、賃金があがる機会もほとんどありません。もちろん、お金があればそういった制度的なものから抜け出る可能性もありますが、お金を貯める手段がないので、実質的には現状から抜け出せないのです。

 

そういった閉塞感を一気に打破できる唯一の手段が賭けなのです。賭けだけは、ほんのわずかのお金さえあれば、後は運次第で大金を手にすることもできます。だからこそ、多くの人はなけなしのお金を賭けに投じるのです。もちろん、賭けに勝てば現状の境遇を抜け出せるというのは幻想に過ぎません。

 

 

まとめ

ドストエフスキーの賭博者を、反面教師として将棋に活かすことはできるでしょうか?

 

賭けが身を滅ぼす理由は、一つしかありません。それは、「負けを取り戻そうとする」ことです。負けたら潔く撤退できれば、長い目で見て負けは帳消しにできるかもしれません。しかし、短期間で帳尻を合わせようとすると、間違いなく傷口を広げることになります。

 

将棋も同じで、たとえ賭けをしていなくても、負けたら次は勝ちたいと思うのが人情です。特に、将棋アプリの短時間の切れ負け勝負なら何回でも勝負ができるため、勝つまで勝負を続けがちですが、そういうときこそ、負けが続くものです。

 

負けを負けとして認め、冷静さを失わないこと。これが、賭けの傷口を広げないコツであり、将棋の負け癖を食い止める唯一の方法です。