直江津白山の将棋よろず覚書き

将棋の魅力を、将棋関連書籍の紹介や将棋の歴史解説などを通して、お伝えしていきます。

棋書評価「勝てる棒銀戦法」

今回は、「勝てる棒銀戦法」(創元社 青野照市著)のブックレビューです。

 

本書の概要

本書の「はじめに」において、筆者はこう述べています。

「相手が初心者の想定から有段者が指す手まで解説したのでどんな棋力の相手にも対応できるのが特長」

このように書いてあると、棒銀初心者が読めそうな本と思いがちだが、現実的には初心者にはハードルの高い本となっています。

 

本書の構成は以下のとおり、4章立てとなっています。

 第1章:相掛かり棒銀

 第2章:速攻矢倉棒銀

 第3章:対四間飛車美濃囲い編

 第4章:対四間飛車穴熊

 

それぞれの章において、基本となる局面から2~6の分岐を提示し、それらの分岐について解説しています。

 

例えば、第1章は基本図から、相手が「初心者」・「中級者」・「上級者」の3パターンで解説しています。こういった相手の棋力をベースにした解説は斬新ですが、仮に自分が初心者だったとして、この解説を理解できるかは疑問です。

 

これは、本書の解説に問題があるというのではなく、自分が初心者で相手が上級者であり、かつ相掛かりになったとして、初心者が本書の知識を少々勉強したくらいでは上級者の相手には難しいと思います。

 

研究ノート

ほとんど全ての戦法書はある局面の推移の解説になってしまうのは、何故でしょうか?

 

将棋というゲームの本質は、相手より多くミスをしたほうが負けることにあります。特に、双方の棋力が上がるほど、わずか一手のミスが勝敗につながります。

 

ということは、ある局面で優勢になると、棋力の高いプレーヤー同士なら、その差を縮めることは容易ではなくなります。そのため、ある局面の推移で優勢になることを提示できれば、そのまま優勢を保ったプレーヤーが逃げ切れるというのが、こういった解説書の前提になるわけです。だから、ほとんどの解説書は、こうなったら「先手よし」という途中図で終わってしまうのです。

 

もちろん、上級者以上であれば、そういった知識は非常に重要となります。一方、中級者レベル程度の場合、ある局面で優勢を保っても、終盤であっけなく逆転を許すことは日常茶飯事です。

 

こういった解説書が初心者、中級者にとっては消化不良になるのは、直接の勝利に結びつかないことが多いからです。

 

こういった解説書は、言い方を変えると、解説している戦法の手筋集とも言えます。このような局面には、こういった手が有効であるという解説は、まさに手筋そのものです。こういった知識は当然役には立ちますが、これだけでは勝てません。戦法の本を読むと同時に、寄せの勉強もしないと棋力向上にはつながりません。