直江津白山の将棋よろず覚書き

将棋の魅力を、将棋関連書籍の紹介や将棋の歴史解説などを通して、お伝えしていきます。

棋書評価「将棋基本手筋コレクション432」

今回は、「将棋基本手筋コレクション432」(将棋連盟文庫 将棋世界編)のブックレビューです。

 

私見

本書の「まえがき」で次のように述べられています。

「手筋とは部分的な形において有利のなるための一手であり、先人達が編み出してきた将棋に勝つための知恵の結晶のようなもの」

 

つまり、手筋を多く知っていれば、それだけ相手より優位に立てるというわけです。では、本書を全てマスターすれば棋力は上がるでしょうか?

 

将棋の勉強に関しては、定跡の勉強と本書のような手筋の勉強があります。実は、初心者にとって定跡の勉強は、さほど棋力の向上にはつながりません。

 

初心者にとって定跡の勉強がそこまで役に立たないのは、初心者が定跡を見ても、どうしてそれが定跡なのかが理解できないからです。仮にその定跡を覚えたとしても、定跡のとおりに展開することは、ほとんどありません。それに、定跡はある局面までの推移を提示しているだけなので、定跡の先は自分で考えなければなりません。将棋の基本がわかっていない状態で、定跡だけ勉強しても棋力の向上につながらないのは、こんな理由からです。

 

他方、手筋は部分的な形において有利になるための一手であるため、未知の局面に直面しても、手筋の知識を活かして、手を打てるわけです。その意味で、初心者は定跡よりも手筋を勉強したほうが棋力の向上にはつながります。

 

一方、手筋の勉強にも落とし穴はあります。

将棋というゲームは、部分的な形で有利になれば終わりというゲームではありません。あくまで、相手玉を詰まさなければ勝利になりません。ある局面で優勢というのは、相手玉を寄せやすくするためのプロセスに過ぎません。手筋で優勢になっても、寄せの手順を間違えて逆転負けといったこともよく発生します。

 

特に本書では、飛車・角を切る手筋も数多くあります。棋力が十分であれば、大駒を切っても確保した優勢を維持できるでしょう。しかし、棋力が未熟な状態で大駒を切ってしまうと、その瞬間の局面は優勢になっても、取られた大駒をうまく使われて、結局負けてしまうということも当然考えられます。その観点から、本書を鵜呑みにするのは避けるべきです。特に大駒を切るような手筋を実戦で使う場合は、注意が必要です。

 

私流本書の使い方

本書のような手筋の問題集は、一般的に、現在の棋力でどの程度問題が解けるかを把握するために使われます。実際、チェックリストが本にある場合もあります。

 

本書の問題構成は、居飛車振り飛車問わず、様々な局面が出題されています。テストという観点からは、多くの問題を解けたほうがいいでしょう。

 

しかし、将棋は紹介された手を実戦で指せてこそ、意味があります。しかも、本書の場合、居飛車振り飛車問わず様々な局面から出題されますので、例えば、居飛車党にとっては、振り飛車の局面の手筋を知っても、そこまで棋力向上にはつながらないわけです。

 

そこで、私の場合、本書の問題を全て解けるようになることは諦めて、自分が納得できた手筋を集めて、それを実戦で試みています。

 

確かに、問題を解けることも重要ですが、習った手筋は使えるようになってこそ、意味があります。私は居飛車党なので、振り飛車の手筋は実戦で使わないのです。だから、本書の多くの問題については解くことを諦めて、自分の戦法に沿った手筋を集中して習得する方が、学習効率はよくなります。

 

将棋と同じように、本に書かれていること全てをマスターするのではなく、時には捨てる姿勢も重要になってくるというわけです。