直江津白山の将棋よろず覚書き

将棋の魅力を、将棋関連書籍の紹介や将棋の歴史解説などを通して、お伝えしていきます。

棋書評価「井上慶太の居飛車は棒銀で戦え」

今回は、「井上慶太居飛車棒銀で戦え」(NHK出版 井上慶太著)のブックレビューです。

 

 本書の概要

本書の「はじめに」において、筆者はこう述べています。

「駒の動かし方は分かるが指し方が分からない、という声をよく耳にする」

このように述べている箇所がるので、直接的に言っているわけではないですが、筆者は初心者向けに本書を執筆したと言えます。

 

本書の構成は以下のとおり、3章立てとなっています。

 第1章:基本の相掛かり棒銀

 第2章:矢倉棒銀と角換わり棒銀

 第3章:棒銀四間飛車撃破

 

他の棒銀の解説書と同じように、本書でも、相居飛車の戦い方である「相掛かり棒銀」・「矢倉棒銀」・「角換わり棒銀」を解説し、後は振り飛車対策を解説しています。そして、それぞれの章の中でテーマとなる局面について、変化の推移を解説しています。

 

本書に限らず、初心者向けの戦法解説というのは、実は著者にとっては非常に難しいのだと思います。本書は、初心者向けですが、ルールを一通り覚えた初心者がこういった本を読んですぐに理解できるかというと、そうでもないことの方が多いです。

 

将棋の解説をする以上、ある局面の変化を説明するという形にならざるを得ないのですが、初心者にとって難しいのは、そのテーマとなる局面に至るまでのプロセスが、わからないのです。つまり、どうしてそのテーマに到達するのかについての、説明が無いからです。

 

ほとんどの解説は、初手から数手進んだ局面の棋譜がスタートになり、そこまでは何の説明もありません。初心者としては、どういう理由でそのような局面になるのかまで知りたいのですが、そこまで解説している本はまずありません。初心者向けと言いながら、戦法の本を読んでもちっとも強くならないというのは、ここに原因があると思います。

 

また、戦法の解説書の宿命とも言えますが、紹介する戦法の威力を紹介するため、戦法を仕掛ける直前の手は、概ね緩手・悪手になっていることがほとんどです。だからこそ、技が決まるわけですが、実戦では中々本が解説するような展開になりません。もちろん、技が決まるような展開に持っていくことに指し手の実力が問われるわけですが、初心者であるがゆえに、そこまでのレベルに到達していません。特に棒銀は、受け方の方法も解説書やネットで氾濫しているので、一通りの受け方をされると初心者はどうしても手が進まないということになり、中々上達しないということになります。

 

こういった解説書を読む上で初心者が心がけることは、「数の攻め」を常に意識することだと思います。棒銀の骨子は、2三の地点を銀と飛車で攻めることにあり、状況に応じてこれに角を絡めることもあります。将棋の基本は、ある地点を複数の駒で攻めることになるので、解説書を見るときは、どの地点をどのような駒で攻めようとしているのかを意識しながら読んでいくと理解が深まると思います。

 

本書のどの点が役立ったか

本書の特徴として、ページ数は少ないものの後手番での矢倉棒銀を解説している点です。ゴキゲン中飛車など後手番用の戦法でなければ、戦法の解説書は先手番で解説されます。しかし、棒銀は先手、後手問わず指せる戦法なので、後手番のときの棒銀の使い方を解説してくれるのは、非常に参考になります。

 

ちなみに、本書での後手番の棒銀解説の局面は、先手が「攻め合い」を選択した場合と、「専守防衛」を選択した場合の2つの展開を解説しています。

 

棒銀は、よく初心者向けの戦法と言われています。その理由は、戦い方がシンプルなので覚えやすいからです。しかし、戦い方がシンプルであるが故に、対策されやすいということも言われております。

 

さりながら、棒銀はプロも使う戦法ですし、駒の連携を意識して戦えば、十分に有用な戦法です。また、受け方を間違えると、あっという間に窮地に陥ってしまいます。

 

棒銀を自分の戦法とする場合、確かに原始棒銀だけでは行き詰まってしまうので、如何に攻撃を繋げられるかを意識して勉強していく必要があります。